About Anthony Wong

黄耀明と巡る魅惑の宇宙

2000年 光天化日演唱會 鑑賞日記

2000年7月7號~7月8號 

香港會議展覧中心新翼Hall3

★時間:PM8:00~★客層:老若男女さまざま。意外かもしれないが男ファン多し(数年前に見た岡村靖幸の復活コンサートを思いだしたほど)★

一日目

会場は灣仔の港が一望できる「香港會議展覧中心」。コンサートが行われるHall3に入ってみると、ただっ広い場内なのにエアコンの冷気で肌寒い。この会場の雰囲気は、日本で言うなら「横浜アリーナ」または名古屋の「レインボーホール」のような感じだ。やはり黄耀明は香港ではかなりビッグな存在なのだということを、今さらながら痛感する(ふだん、小さなライブハウスに行くことの方が多い私)。

ステージ下、客席前方右側にお医者さんと看護婦さんが待機しているのを見て、なんか野外コンサートみたいだな、と思い開演を待つ。今日の席は右端ではあるけれど、前から三列めだ。このチケットをとってくれた方と、その幸運を分け与えてくれた人脈に感謝せずにいられない。

開演を待ちながら、私はだんだん不思議な気持ちになった。毎日の生活は不安と心配と、ため息でいっぱいだ(もちろんそれだけじゃないけどね)。だけど、今はこうして香港のコンサート会場にいて、同じアーティストを好きな人たちと、ただ好きな音楽が鳴り響くのを待っている。私と同じように開演を待っている香港のファンの子たちだって、黄耀明だって、毎日をひとりの人間として過ごしている時は楽しい時間ばかりじゃないんだよね。みんな会社や学校に行って、叱られたり失敗したり喧嘩したり、いろいろありながらも、今日この時を待ち望んでたんだろう。

 

……などと感慨にふけっているうちに開演を告げる音楽が鳴り響き、巨大なスクリーンに演唱會関係者の名前がクレジットされた映像が流れ始める。ドキドキ。ファンになって2年と2ヶ月、ついにここまでこぎ着けたという感慨で胸がいっぱい。

音楽が終り、誰もがステージを注視したその瞬間、『下世紀再嬉戯』をアカペラで歌う黄耀明の声が!すごいわー、やっぱり声デカいわ。しばし場内に響きわたるその声にうっとり。とまあ、こんな感じで演唱會は幕を開けたのであった。

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ステージには特にセットらしきものはなかったが、ステージ左端にはなぜかベッドが置いてある。そして銀ラメスーツと同じ生地の帽子、というド派手な衣裳の黄耀明に対してバンドのメンバーは白いTシャツ姿と、とてもシンプル。でも腰にはやはりギラリと銀色に光るエプロンをまとっている。黄耀明の右と左で踊るダンサー二人(男)も同じ格好。何なんだろう、このセンスは。ちょっとグラマラスな魚河岸の兄さんかい。

このダンサーというのがルックス・踊りともにどう見ても素人で、曲の間じゅうひたすら激しく、狂おしく踊りまくっているのである。ちなみに左側担当のダンサーは痩せていて、右側が小太りと対照的。小太り君が踊る様子は、林家こぶ平が「笑っていいとも」のレギュラーだった頃、本番中ずっとルームランナーやって何キロ痩せるか?という企画をやっていたのを思い出させた(ライブ終了後、一緒に見た日本人ファンの仲間は口々に「右側、こぶ平にそっくり」と言っていた。みんな思うことは同じなのね)。

ステージに「いかにも素人ダンサー」を出してくるあたり、実にひねりがきいているなぁ黄耀明…と、いちいち感心してしまう私。あ、曲のことも書かなきゃ。初盤で何か英語の曲を歌い始めたのだが、聞き覚えがあるものの、途中までは誰の曲なのかピンとこなかった。サビ直前でやっとマドンナの「マテリアル・ガール」だと気づいたのだが、「おおっ、アレンジ変わってるからわからなかったよ!やるなぁ~、かっこいいっ」と、またしても唸ってしまう私であった。

 

ところでステージ左端のベッドは何に使われていたかというと、ここにもまた二人の男性が登場し、ベッドの上でさまざまな人間模様を演じていたのだった。片方がベッドに横たわって何度も寝返りを打ち、「やっぱり眠れないっ」という風に突っ伏してみたり、その枕元でもう片方が本を読んであげていたり、二人で寄り添い仲良くベッドに腰掛けていたり。またある時はマッサージを始めてみたり…。こちらの方が気になりだすと、主役そっちのけでじーっと見入ってしまいそうだった。

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ステージを軽やかに動きまわりながら歌う黄耀明と、相変わらずめちゃくちゃに踊り続けるダンサーを見ているうちに、なんだか涙腺が緩くなってきた。この二人のダンサーの踊りはプロの踊りなんてものではなく、街角で見かけるあぶない人そのもの。駅で、日曜の公園で、歌い踊っているちょっとネジが外れたような人々。そんな人々をほうふつさせるダンサーや、ベッドの上で世話を焼いたり焼かれたりして愛を育む?(または患者と介護者か)男ふたり。「尋常」な世界から見ると少し奇妙に見えるかもしれない光景を、黄耀明の歌声がやさしく包みこんでいる。

いや、「奇妙」であろうとなかろうと、どんな人だって、私だって、ありのままで普通だし、それでいいんだ、と思えてきた。地上に生きるすべてのものは等しく、無条件に存在を許されている……なんてことがステージから伝わってきているような気がして、無性にありがたく、仏様でも見たように感動してしまった。思い込みかもしれないけど、こんな風にいろんなことを考えさせてくれるアーティストを好きになった事がとても嬉しい。

 

歌声があまりにも心地よく、また徹夜の疲れもあり(前日、ほとんど眠らず香港行きの荷造りをしていたため)、時々意識が遠くなることもあったが、それでも充分に感動的な演唱會であった。

とくに「小王子」が始まった時、この曲を生で聴くのが夢であった私は欣喜雀躍。あの林海峰との「Music is live」をVCDで見て印象に残ったのは、この曲を歌って幸せそうな黄耀明と、これまた大変幸せそうに合唱する観客の表情だった。私もついに、その幸せな観客の一人になれる!ジーンとしていたら、黄耀明本人もジーンとしていたらしく(声出なくて悔しくて、ではないよね?)、歌っている途中で声を詰まらせていた。いつも思うのだけど、こういう瞬間の心情とはどういうものなのだろうか。きっと、何かに打ち込んでいる人だけが味わうことのできる様々な思いが去来しているのだろうが……。

 

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ステージ上のパフォーマー達に話を戻すと、先に書いたダンサーやベッド担当の二人のほか、なぜか大きなゴールデンレトリバーを連れた女性が登場。というより犬がメインか。お犬様はステージ左端でおとなしくしていたけど、連れていたお姉さんは責任重大で大変だったかも。あとは「四季歌」で凧揚げする人が登場。ノスタルジックな曲調と非常によくマッチしていた。凧揚げは世界共通の懐かしい遊びなのだな。

スクリーンに映写される映像も、「雨粒がつたう窓越しに見える高層ビル群」や「えんえんと平泳ぎする人」など、いつか夢で見たような不思議な懐かしさを感じさせるもので、かなり私好みだった。スタンリー・クアンの映画っぽい雰囲気で。

 

ということで、何曲か歌と演奏がズレていたり何度もやり直した曲もあったりしたものの、全体的には満足できる初めての黄耀明演唱會体験だった。

 

二日目

席自体は一日目に比べかなり後ろのほうだったけれど、ほぼ真ん中でステージが見渡せる好位置。あやしい素人ダンサーズの踊りや、ベッド上のパフォーマーの動きも逐一チェックできた。

 

演唱會の中盤、ちょっとしたインターバルがあるのだけど、二日目はここで一日目にも出た(でも同じ犬かどうかは不明)ゴールデンレトリバーがステージ中央に登場。これにはびっくりした。が、観客は余裕の歓声と拍手で迎え、レトリバー君の「え?ひょっとして僕って主役??」とばかりにキョロキョロする様子がスクリーンに映し出され、観客の笑みを誘っていた。

何の曲か忘れてしまったけれど、確か痩せてるほうのダンサーらしき人が、黄耀明に変わってステージ中央で熱唱、するフリをする曲があった。黄耀明本人はステージ左端でアテレコの如く歌っており、中央のにせもの君は大げさな身振りで大熱演、しまいには「キメ」のポーズで硬直したまま、舞台袖に運ばれていったのであった。

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音楽的には打ち込みっぽいテケテケした音あり、琵琶あり琴あり(両方とも生楽器)と、かなりバリエーションに富んでいて良かったと思う。個人的には打ち込みっぽい音はそこまで好きではないけど、あの歌声が乗っているともう気にならなくなってしまうのである。

一日目はファンの反応はおとなしめだったが、二日目はうってかわってノリノリ。ぽつぽつと立ち上がる人が目立ちはじめ、曲によっては椅子の上に乗ってブリブリ踊りだすほどの大盛り上がりに。そして私もいつの間にか靴を脱いで椅子の上に乗っかってしまった。最初は誰かが席から立ちあがっただけで警備員が注意に来ていたのだけど、周囲のみんなが盛り上がって大フィーバー状態になり、私も雰囲気に流されてつい……(もうしません、すみません)。

二日目は3度もアンコールに応じるほどの盛り上がり。それも2度目と3度目は客出しの音楽が鳴っているのも構わずのアンコールだった。まさに「大盛況」を絵に描いたようなコンサート。観客への感謝を表すように、どピンクのラメラメスーツを着た黄耀明が真紅のバラの花束を持って現れ、客席に投げ始めた

ライブ、花束、といえばモリッシーだが、「黄耀明さん、あなたは私にとってモリッシー以上の存在ですっ」と心の中でむせび泣いていたのは私。

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アンコールでは達明一派の「石頭記」も聴けて。もう言うことなし。「石頭記」のイントロが始まった途端、「うぉぉぉーっ」とざわめく香港のファンたち。私も香港に生まれて広東語を母国語とし、達明一派に熱中する青春時代を送れていたなら……と、少しだけうらやましく思った。でもこうして日本に生まれ、日本や海外の魅力的なものや音楽にその折々で夢中になりつつ、ふとしたきっかけで黄耀明を知り、幸運にも香港にまでコンサートを見に来れてるんだから、それで良しとしよう。

黄耀明を知る機会を作ってくれた幾つかの偶然と、同じ黄耀明ファンということで知りあえた人々に感謝したい。心から。

そしてもちろん、黄耀明さん本人にも。

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 ▼今ではすっかり印字が薄れてしまったチケット

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