About Anthony Wong

黄耀明と巡る魅惑の宇宙

パソ通と明星と私【3】香港飛翔編

(立志編からの続き)

1998年7月、梁家輝ファンの友人と二人、ついに初の香港観光ツアーに参加。新しくできたばかりの空港に降り立った。残念ながらその前日か前々日に黄耀明啓徳空港さよならコンサート」に出演した後で、彼を生で見られる機会はなかった。

それでも初の香港にテンションは上がり、恋する惑星に出てくるヒルサイドエスカレーターに乗り、当時まだ存在した蘭桂坊のミッドナイトエクスプレス(ここもロケ地の一つ)の写真を撮り、泊まるホテルにほど近い重慶マンションで両替。

香港映画ファンとしてロケ地巡りを満喫した後は、黄耀明ファン活動も忘れてはならない。日本にも少なからずファンがいるということを、レコード会社にアピールするのだ。

名古屋の空港で買っておいた敷島製パンの和菓子なごやんを手に私が向かったのは、もちろん黄耀明の所属するレコード会社・正東唱片。近くまで来たのにビルの場所がわからず、近くの適当なビルに入り「受付の女性にガッチガチのカタカナ英語で道を尋ね、何言ってるのか全くわからないという顔をされる」という生き恥を乗り越え、なんとか目的のビルにたどり着いた。

清潔感あふれるオフィスの受付のベルを鳴らし、出てきたスタッフにまたまたカタカナ(もはや英語ではない)で挨拶すると、奥から「日本語わかります」という若い女性が出てきて対応してくれた。

黄耀明ファンであることを伝えると、「今、担当者が外出してまして」と言われたが、元から担当者に直接会うことまでは考えてなかった。「皆さんでどうぞ」と、名古屋銘菓なごやんと「日本から来た黄耀明のファンです」と書いたメモを渡し、早々にオフィスを後にした。

「日本から黄耀明のファンが来て、お菓子を置いていった」という事実が数人の社員の記憶に残ればいいのだ。「あの人、日本にもファンいるんだね~(モグモグ)」くらいで。それが即、来日公演や日本盤発売に繋がるなんてありえないが、「日本にも結構ファンおりまっせ!」ということだけは伝えたかった。

翌99年、黄耀明は正東唱片から環球唱片に移籍してしまうんですが。

 

この「正東唱片アポなし突撃体験」をネットに書き込みしたことにより、私は黄耀明ファンの先達に発見され、何人もの国内の同志と知り合うことができた。その人々とあのパソコン通信の黄耀明ファンのメンバーは一人もかぶっていなかった。

黄耀明と達明一派には沢山というほどではなかったが、想像よりも多くのファンがいて、ほとんどが地方在住だった。私と同じ県の人が二人もいて、三人全員が同い年というのもちょっと驚いた。

やがてニフティサーブInfoWebとの統合、ニフティのフォーラムへの参加者の減少などもあり、黄耀明ファンのスレッドへの書き込みも途絶え、パソコン通信のユーザーもほぼインターネットへ移行していった。

黄耀明ファンの方々との交流はネット上だけにとどまらず、黄耀明グッズを買いに神戸、大阪に行くオフ会も開催された。みんな日本語以外の英語や中国語はある程度できるようで、日本語のみの私は「凄いな~」と感心しきり。黄耀明がイベントにゲストで出ると情報が出れば、個人演唱會でもないのに香港に飛んで行くアクティブな方も多数おられた。

 

そして2000年。ようやく私も、黄耀明「光天化日演唱會」を見に渡航できることになった。チケットはファン仲間の方の香港の友人が取ってくれた。よく考えると、今まで行った黄耀明や達明の演唱會のチケットは全て、人に取ってもらったものばかり……いつもすみません(初の演唱會体験の様子は、ライブレポの記事をご覧ください)。

さて個人演唱會の次は達明一派の再々結成、また次の個人演唱會と、何度も香港に足を運ぶうち、嬉しい出会いがあった。私が黄耀明のアルバムを購入するきっかけとなった、「楽しげに、熱意をもって」パソ通で語り合っていた人々に、演唱會の会場で会うことができたのだった。その時の気持ちを一言で言うと、「やっと会えたね」(by辻仁成)。

 その方々のお一人に言われた。「どうしてファンになったんですか?変なオッサンやなって思いませんでした?

どう返答したか忘れたが、今はこう思う。

その音楽も含めて、変なオッサンだからずっとファンでいるのかも。

変=代わりがいない存在。数多に存在する明星とはどこか違う、その「変」のありようが自分の心や好みにストンとはまる。黄耀明のファンは彼と音楽の趣味が似ている音楽通が多い印象だが、そんな素地がない私にさえも「こんな音楽が聴きたかった!」と思わせてくれる。

欧米と中華、エンタメとアート、メジャーとマイナー、変なオッサンとポップスター、そのすべてが複雑に絡み合い、同居している黄耀明。どんだけ多面体なんですか。

香港ぽくなくて、すごく香港的

こんな明星、ちょっとおりまへんわ。