About Anthony Wong

黄耀明と巡る魅惑の宇宙

パソ通と明星と私【1】黎明編

(これは2018年の私が書いています)

香港といえば、刑事ドラマの海外ロケで悪の組織が出てくる舞台だったり、Mr.Booだったりブルース・リーだったりジャッキー・チェンだったり、という程度の印象だった子供時代。

 

それからかなり経ち、日本にバブルやバンドブームというものが到来し、音楽番組「夜のヒットスタジオ」も邦楽ロック中心の「ヒットスタジオR&N」(戸川純バブルガムブラザーズが司会)とか海外アーティストが出演する「ヒットスタジオinternational」というスペシャル版も放送されるようになった。個人的には停滞期に入っていたと思うThe Style Councilもロンドンから中継で出演していたのを覚えている。ポール・ウェラーがハンチング被ってオルガン弾きながら歌っていたような。

その夜ヒットに、香港ではないがシンガポールディック・リーが『マッド・チャイナマン』の京劇の扮装で出演した。司会の井上順が「デイック・リーさんががあまりにいい男だから通訳の服部真湖さんがキャーキャー言っちゃって~」的な事を言ってたっけ。服部真湖さんじゃなかったらごめんなさい。

 

で、その時のディック・リーの洗練された曲調、ゴージャスなパフォーマンスに「へぇぇぇ~」と思い、「夜ヒットにシンガポールのキングオブルクセンブルグみたいな人出てたよ!」とキング~(サイモン・フィッシャー・ターナーの変名)や彼の所属するelレーベル好きの友達に話したら、「えぇ~っ!?」と微妙に嫌そうな顔をされた。当時、影響力のあったフリッパーズ・ギターがキング~やelレーベルがお気に入りだったという事もあってか、el界隈は洋楽ファンの間でけっこう人気があった。自分ではいい比喩だと思ったんだけどなー。

それから間もなく行ったフリッパーズだかピチカートファイヴだかのライブで並んでいる時、前にいた女の子に「最近注目してる人いる?」と聞いてみたら、「ディック・リー」という返答が。やはり、今まで国内や欧米のみに向いていた若い音楽ファンの目も、少しずつアジアにも向いてきていると思った。感性に響くものであればどの国出身であっても関係ないし、欧米の音楽で育ったアジアの優れたミュージシャンによるクオリティの高い音楽なら普通の洋楽ファンの耳にも馴染むだろうし、そこからアジア各国のローカル音楽に興味を持つリスナーも出てくるに違いなかった。

 

アジアと欧米の音楽のいいとこ取りであるディック・リーは間違いなく、いろんな人のアジアへの突破口を開いた。その後、何人もの黄耀明ファンから中華圏音楽への関心のきっかけとして「ディック・リー」という名前を聞くことになる。ついでになぜか「フリッパーズ・ギター好きだった」とも。

 

さて「夜ヒット」から更に年月が経ったある日。大阪に遊びに行った時、立ち寄ったCDショップで林憶蓮(サンディ・ラム)『野花』がかかっていた。当時、もう惰性でパラパラ眺めるだけだった音楽誌ロッキング・オンで、松村雄策氏がヴィヴィアン・チョウ、フェイ・ウォンなど中華圏の女性歌手を取り上げ始めていた。フェイはNOKKOとかCHARA系、なんていう大雑把な説明だったが。もちろんサンディのこの作品もディック・リーがプロデュースしたという情報込みで紹介されていた。

「あー、あのD・リーがプロデュースしたって人だ。結構いいなあ」と思った。

そしてまた別の日。

地元の美容室に行ったところ、店内にアジアンテイストなしっとり系女性ヴォーカル、かつお洒落に洗練されまくったサウンドが流れてきた。店内にいた美容師さんがそのCDの持ち主らしいヒゲメガネの美容師さんに「これ誰の曲?」と尋ねた。ヒゲメガネ美容師が誇らしげに「これが最近いいんだよ~」と取り出したのは……

またサンディ・ラムの『野花』! 

うん、いい、すっごくいい。これはもう、買うしかない!

 

こうして私は生まれて初めて、香港人アーティストの作品を購入することとになった。

地元の大きめのCDショップには、中華圏アーティストのコーナー(もちろん日本盤)ができていて、他には艾敬,寳唯、王菲(王靖雯)なんかのCDが置いてあって、「今、アジアの音楽が熱い!」的な冊子もあり、前述のアーティスト以外では羅琦が紹介されていた記憶がある。今思えば、ロックレコードの中華アーティストを陳列していたんだな。

松村雄策さん、大阪(心斎橋かな?)のたぶん今はないCD屋さん、いしかわじゅんを若くしたようなヒゲメガネ美容師さん、地元の大型CDチェーンさん、ありがとう。